
伊勢に今月で閉店する喫茶店がある。
25年営業を続けてきたそうだ。
私がこの店を知ったのは、3年ぐらい前だとおもう。
友達に「いい喫茶店がある」というので連れてこられたのだ。
壁にはステンドグラスがはめてあって、
こぶりの椅子と机があって、
エプロンをした感じのいいマスターがいる。
コーヒーはエレガントで華奢な形をした、
花柄のコーヒーカップに入っている。
音楽はクラシック。
「これぞ喫茶店!」という喫茶店で、私は気に入って、
時々ひとりで立ち寄っていた。
本を読んだり、チョコレートパフェを食べたりしに。
この店を教えてくれた友達に用があるときは、
必ずここの喫茶店を指定した。
友達と2人でぼそぼそとの得体の知れないトーク繰り広げても、
すっぽりと収まってくれるような、そんな懐の深い喫茶店だった。
他にも潰れていく喫茶店はある。
名古屋からやってきた大型のコーヒーチェーンであるとか、
若者が好みそうな、店主の趣味を無言で押し付けてくる、
居心地の悪いカフェであったり、
そういうお店はたくさんある。
しかし、その中でも何十年とできるお店は少ないだろうと思う。
最近、家の近所にいい案配の喫茶店を発見した。
といっても40年以上そこで喫茶店を営んでいるお店なのだけど、
こないだひょんなことがきっかけで、初めて足を踏み入れた。
とてもいいお店だった。
程よく使い古された椅子や机、茶色くなった壁。
客層もほとんど年配の方たちである。もしくはサラリーマン。
ひとりでふらっとやってきて新聞を広げていたり、
団体でおばさんたちがおしゃべりをしていたり。
そしてほとんどの人がお店の人と顔なじみのようだった。
窓際の席は日当りもいい。
モーニングもやっているし、ランチの種類も多い。
品数がたくさんある。
近頃はおじいさんや、おばあさんのお客さんに混じって、
本を読みにいくことが多くなった。
そこに行くと、ふわふわしていた気持ちが、
すっぽりと収まるのである。
家ではないどこかで本を読むということ。
つまり暮らしから少し逸脱した世界が近所にあるというのは、
ほんとうにありがたいことである。
読書にはおいしいコーヒーが必須だと近頃は特におもうわけで。
大きな声でなにかを主張するわけではなく、
ただお客さんの居心地の良さを提供しようとする気遣いが、
伝わってくる。
そしてそこに自然と人が集まってくる。
思想や年代や趣味を分け隔てる事なく。
それは人としてとても品のよいことのように思う。
長く細くひっそりと店を続けている店には、
やはりそれなりに失われてはいけない、
多くの人々の共有されるべき価値があるのだ。
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